Seminar

不定期開講のインフォーマルなセミナーです。微生物学としておりますが、微生物と関わる周辺領域(生態学、電気化学、地球化学、バイオインフォマティクスなど)の研究者の交流の場にできればと思っています。今後は化学熱力学計算のハンズオンセミナーなども実施していく予定です。参加に関するお問い合わせは瀬戸(seto "at" ics.nara-wu.ac.jp)までご連絡ください。ご講演者も随時募集中です。

 

2024年度


  2025年2月27日 16:45 - 17:30 G302 NWU *奈良女大清水研+瀬戸研合同WSの一環として
理化学研究所・バイオリソース研究センター 西原亜理沙

演題「光合成生物の進化史を大規模ゲノム情報から紐解く

 光合成生物は少なくとも35億年前に出現していたことが地質記録から推定されているが、分子遺伝学的な証拠は十分ではなく、現存する光合成生物の進化過程についての議論は続いていた。本研究では、19,972個の原核生物の膨大なゲノムデータを解析し、光合成関連タンパク質の系統解析結果を、真核生物・アーキア・バクテリアのゲノム系統樹や地学的証拠と照らし合わせることで、光合成の進化過程を包括的に解明することを試みた。



  2025年2月27日 16:10 - 16:45 G302 NWU *奈良女大清水研+瀬戸研合同WSの一環として
産業技術総合研究所・環境創生研究部門 佐藤由也

演題「微生物 × 微生物、昆虫 × 微生物、都市 × 微生物の関係をみる

 自然環境では微生物は他種と混在して複雑な微生物コミュニティを形成し、物質循環や動植物との共生など、多くの重要な働きをしている。そしてそれら重要な働きを知るために、私は、微生物同士、もしくは動植物-微生物間の大小さまざまな関係性に着目して研究を行っている。ここでは、微生物同士もしくは昆虫と共生細菌とのユニークな協力関係や、都市化が微生物生態系に与える影響など調べた研究を紹介する。



  2025年2月27日 14:55 - 15:25 G302 NWU *奈良女大清水研+瀬戸研合同WSの一環として
奈良女子大学・理学部・化学生物環境学科・生物科学コース 清水隆之

演題「光合成生物で解き明かす超硫黄分子による生理機能の調節システム

 超硫黄分子は分子内に過剰な硫黄原子が付加されたポリスルフィド構造をもつ硫黄代謝物の総称で、太古の地球から生物を支えてきた生命素子として近年注目を集めている。私は、超硫黄分子に基づいたレドックス応答の観点から生命現象の理解を目指している。ここでは、その礎となる、硫化水素資化性の紅色光合成細菌をモデルとした超硫黄分子応答機構について概説したうえで、最新の研究と応用研究に向けた取り組みを紹介する。



  2025年2月27日 13:30 - 14:00 G302 NWU *奈良女大清水研+瀬戸研合同WSの一環として
奈良女子大学・理学部・化学生物環境学科・環境科学コース 瀬戸繭美

演題「多反応熱力学計算で紐解く微生物群集機能: 無数の可能性から生命解を導く

 微生物群集の相互作用は主に代謝産物の受け渡しを通じて行われるため、群集ネットワークを化学反応ネットワークとして解釈できる。化学反応の進行性やエネルギー入出力は熱力学法則に支配されることから、反応に内在する「エネルギー的価値」が微生物機能の進化や発現に影響を与えていると考えられる。本発表では、多反応熱力学計算を用いた酸化還元反応機能の進化や発現の理論的考察、近年の共同研究の展開、および将来展望を紹介する。



  2024年12月18日 16:00 - G302 NWU
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)・超先端研究開発部門 鹿島裕之

演題「深海底で電子を食べて生きる微生物を探索する:電気集積培養とオミクス解析による電気合成微生物活動仮説の検証

 地球における全ての生命活動は元をたどれば光合成と化学合成による1次生産で支えられていると考えられてきたが、環境中では生命が利用可能な電気エネルギー(環境電流)が確認され、これを利用した微生物活動が予見されている。微生物による電気エネルギーを使った1次生産(電気合成)は、生命の新たなエネルギー獲得様式として興味深いが、電気合成微生物活動の環境中での実態は未解明であるため、発表者は海洋環境を対象に電気合成反応を行う微生物を探索している。本発表では、電子を食べて生きる微生物のエネルギー代謝について議論するとともに、深海底で集積された電気合成微生物集団の生きざまを紹介する。



  2024年12月12日 14:40 - G210 NWU
京都大学白眉センター・農学研究科 門脇浩明

演題「植物土壌フィードバックと樹木群集の多様性維持機構の解明

 植物と土壌微生物叢の相互作用(植物-土壌フィードバック)が、森林生態系における植物群集のマクロなパターン(共存・優占・遷移)を生み出すうえで重要な役割を果たすことを示唆する証拠が増えつつあります。
 本講演では、森林群集生態学の文脈で、植物と土壌のフィードバック研究の実証的・理論的な研究の最近の進展について、私自身の研究成果も交え、お話したいと思います。最初に、単純なモデルを用いて、植物-土壌フィードバックが生み出すダイナミクスの一端を説明します。つまり、負の植物-土壌フィードバックは植物種の多様性を維持し、植物の成長を抑制する一方、正の植物-土壌フィードバックは特定の種の植物成長を促進し、その結果、その種の優占性を高めることについて述べます。次に、生態学者がどのようにして非常に複雑な植物-微生物相相互作用を明らかにしたか、そのアプローチについて説明し、植物-土壌フィードバックと3つの重要な植物群集のパターン((i)優占度、(ii)空間構造、(iii)遷移)との関連について概説します。そのなかで、アーバスキュラー菌根の種は負の植物-土壌フィードバックを示す傾向があり、一方、外菌根の種は正の植物-土壌フィードバックを示す傾向があることを実証した研究について詳しくご紹介します。
 植物-土壌フィードバックは、局所的なスケールから地球規模のスケールまで、樹木の多様性のパターンを説明できる可能性がありますが、まだ多くの疑問が残っています。植物-土壌フィードバックの今後の研究の展開について皆さんと一緒に考える時間を共有できればと考えています。


  2024年7月11日 16:00 - G307 NWU
北海道大学生命科学院・数理生物学研究室 明石涼

演題「外来哺乳類が在来糞虫群集に与える影響と、ヒトが奈良のシカの腸内環境に与える影響

 外来種による在来生態系への被害は喫緊の課題である。外来種の侵入や在来生物の分布拡大は、在来生物との種間相互作用を通じて在来生態系に大きな影響を与える。外来哺乳類は在来生物の捕食により、新たな資源である糞を供給する。コガネムシ上科食糞群、通称「糞虫」は糞の分解、栄養循環、種子散布などの生態系機能に関わり、群集構造が変化することで生態系機能も変化することが知られる。一方、外来哺乳類による糞の供給が糞虫群集に与える影響の知見は限定的である。そこで、哺乳類-糞-糞虫を対象にした個体群動態モデルにより、外来哺乳類の侵入が糞利用性の異なる2種の在来糞虫の個体群動態に及ぼす影響を調べた。結果、外来哺乳類侵入後、外来哺乳類の環境収容力が大きいほどスペシャリスト糞虫の個体数は減少した。さらに、ジェネラリスト糞虫の外来哺乳類糞への選好性が強いほど、スペシャリスト糞虫の減少が抑制された。つまり、外来哺乳類の侵入は在来糞虫群集の共存の安定性を損ねた。今回得られた結果は外来哺乳類の侵入が、侵入先の糞虫群集に与える影響を考える上での基礎的な知見となり得る。
 さらに、今回のセミナーでは上記のモデル研究に加え、新型コロナウイルス感染拡大前後に奈良公園で実施している奈良のシカおよび糞を対象としたフィールドワークとその展望についてお話する。