研究概要

エネルギーベースで生態系を理解し、社会のエネルギー利用を見つめ直す

酸化還元反応を介した化学エネルギーと微生物群集の相互作用

 光も光合成産物も利用しにくい地下生態系では、化学エネルギーが生態系の生産を支えています。 地球上では光合成(光エネルギーを利用し、生合成する)生物の前に化学合成(化学エネルギーを利用し、生合成する)生物が誕生したため、 地下の微生物生態系は生命誕生時の地球の生態系の様子に一番近いかもしれません。

 地下生態系の微生物は、内部地球の供給物質と表層地球の物質の酸化還元反応を触媒することで、エネルギーを獲得しています。 しかしながら、表層生態系と比べ、利用可能なエネルギー量は数桁ほど小さいと見積もられています。 それにも関わらず、地下生態系には莫大なバイオマスを持つ微生物生態系が存在しています。

彼らはどうやって生態系の維持を可能としているのでしょうか?

 この問いに答えるために、酸化還元反応系と微生物群集動態のネットワークを再現するEco-Redox modelを用い、 熱力学と数理生物学を基盤とした理論研究を展開しています。

エネルギー投入量と生態系の相互作用

 生態系の生産性はエネルギーによって支えられ、エネルギーの枯渇により生産性や群集構造が変化します。 地球上の生物個体のエネルギー源は概ね光エネルギーか化学エネルギーに大別されますが、 光エネルギーを電気エネルギーや運動エネルギーに変換し、生態系全体に投入することも可能です。

色々な形のエネルギーを生態系に投入する際に、エネルギー投入量に対する生態系の応答には 法則性があるのでしょうか?

 この問いに答えるために、閉鎖系水域を対象とし、エネルギー投入量の変化に対する微生物層の応答について 環境DNAをモニタリングすることで調べて行く予定です。また、 現場観測と水質分析を実施し、水質の化学変化との関係性についても理解を試みます。

エネルギーと人間社会の相互作用

 現在多くの国がパリ協定 (COP21: 気候変動枠組条約第25回締約国会議) に参加し、二酸化炭素排出量の削減、並びに 炭素排出量と炭素吸収量が釣り合った状態である「カーボン・ニュートラル社会」を目指しています。 炭素排出量の少ない原子力や再生可能エネルギーにはリスクや安定供給の面で問題があり、 化石燃料からの完全な脱却は困難な道のりです。

 そこで、エネルギー利用効率(エクセルギー効率)の観点から、できる限り効率の良い エネルギー利用の方法論についてデータ解析により検証・提案を目指します。


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